ずっとギターを弾いていたワタシが、23歳の時に急にドラムを叩き出すきっかけとなったのは、手数王菅沼孝三氏のドラムセミナーを見たからだった。
じゃあなぜギタリストがドラムセミナーを見に行ったかっていうと、当時デッドチャップリンというバンドがあって、そのバンドのライヴを見に行った時に、そこで初めて見た菅沼孝三氏のドラムプレイが凄かったので、そこからドラムという楽器に興味が湧いてきたためだった。つまり、デッドチャップリンのライヴを見る事がなければ、ワタシは今ドラムを叩いていないかもしれない。多分バンドなんかもうやめてしまっていただろうと思う。
余談だがデッドチャップリンに出会うのは、ワタシが高校時代にラウドネスのコピーバンドをしていた関係で、そのヴォーカリスト二井原実氏のやっているバンドという事で知った。他のメンバーはまったく知らなかった。初めて聴いた曲は『Rock The Nation』(YouTube)で、これはセカンドアルバムを初めに買って、その1曲目に入っていたからだ。とにかくこの曲が強烈だった。強烈だったせいで、うちの曲『ひげの魔法』の元ネタとなっているかも(笑)。ちなみに『ひげの魔法』はこの『Rock The Nation』とFeel So Badの『愛されたいYeah,Yeah』の2曲をイメージして作ったのだ。
デッドチャップリンの虜に成ったのは、ハードロックでありながら、メンバーがハードロックをやってるひとだけじゃなかったからかもしれない。分かりやすい様に少々乱暴に言うと、ハードロックバンドのリズム隊がジャズ・ミュージシャンだという感じ。勿論、4ビートをやる訳じゃないけれど、ジャズ系のイディオムがハードロックバンドに持ち込まれた事で起こる化学反応というのが、凄まじく効果的で最強だったのである。何でもそうだけれど、こういう化学反応がとても面白い事を起すもので、本当に重要な事という事。ビートルズ好きがビートルズみたいなオリジナル曲ばっかりを演奏してる面白く無さっていうのが、ワタシの場合最も面白くない音楽な訳で、だから今で言うとFunky Kota(YouTube)なんていう化学反応はとても面白いと思うのだ。
前置きが長くなってしまったけれど、何が言いたいかというと、このデッドチャップリンというバンドを初めて生で見た場所というのがVox hall、当時のBig Bangというライヴハウスだった。そういう思い入れの有るハコで初めて演奏するという事は、とても感慨深いものである。しかも、もう10年以上ぶりに訪れたのであるから尚更。
今回はZero Coin Liveという事で、これからライヴをガンガンとやっていきたい! という若者バンドが集うだろうというライヴに、年齢が倍に近いおっさん達が混ざってやってやろうという感じ。これもお互いに良い化学反応になるかもしれないしね。で、案の定想像通りの年齢層の対バンさん、そしてお客さんだった。バンドが4組とソロが2人。
かなりタイトなスケジュールでリハが終了。さてどういうライヴになるか......、とその前にやっぱり『つるや』へ行かねば(笑)。今回はちょっと遠いけれど、『つるや』へ行って、Loftの上の楽器屋Keyへスティックを買いによった。ジーパンにVoxのバックステージパスを貼っていたので、レジでは店員さんに「今からライヴですか? Voxは上に高いですからね」とか声をかけてもらったりした。そうそう、今回気がかりだったのはまさにこの上に高いというハコの構造が、どういう音の回り方をするかという事。特にうちは打ち込み同期ものだから、普通の生バンドと違う部分に余計な神経を使わなければならないから。
でも、リハをした感じではそんなに音の回り方で気を使う程ではなくて、比較的やりやすかった。ただ、ヘッドフォンでクリックを聴いてるドラマーとしては、モニターにも気を使う。これ次第で演奏に致命的なミスが引き起こされるから。いつもモニターには打ち込みの音とベースの音をタップリと返してもらう。極端なはなし、ギターやヴォーカルは返らなくても演奏は成立するが、ベースと打ち込みの音が聴こえにくいと曲が崩壊する可能性がある。ギターの音はギターアンプの音が聴こえるし、ヴォーカルの声も他のモニタからなんとなく聴こえる。それで十分なのだ。
Voxのモニタはそんなにパワーがある感じでもなく、特にベース音が持ち上がらない。基本はステージ上の生音を活かして音作りをする感じ。ただ、ベースアンプはドラムセットより前にあるので、ドラマーとしてはそんなにはっきりと聴こえる感じではない。ベース音をちょっと大きめにしてもダメで、P.Aさんの提案でベースアンプ自体をちょとドラム側に斜めに向けてもらった。これで大体のバランスはオッケー。ステージも広いし、ヤマハのドラムセットも悪くない。あとは思いっきり演奏するだけである。
若い人達が多いという事もあって、S.Eはわざと若者が知らないであろう世界観の曲を選択。スタイルは違うが、pazapもこういう独特の世界観を表現したいという事も込めて。
で、セットリストはこんな感じの20分間1本勝負。
2曲づつは完全にノンストップで、『ニャピョンガ』と『ボク』の間には、6月のライヴでやった語りとオケを付けて。ここで若干の間があるが、ほぼ全曲ノンストップ。勿論いつものようにメンバー紹介も無し。初めての場所で「毎度お馴染み流浪のバンド」と言うのはどうかと思うが、まぁお約束なので冒頭のDittyのオープニングで言うようにした。
演奏はまずまず楽しく出来たという感じ。個人的には多少空回りする部分もあったが、それもライヴっぽい。客席はドラムの位置からは、特に上の方は見えなかったけれど、やはり若い子が多くてアウェイな感じ。アウェイ大好きなのでこんなに楽しい事はない。例えばプロの人のライヴとか、自分たちが好きで観に来てくれてる人達だけの前でやるっていうのはどういう気持ちなのか、我々には分からないけれど、このアウェイな感じでやる感覚が無いのなら、ちょっとつまらないんじゃないの? とまで思ってしまう。1人でもいいから、初めてpazapの演奏を聴いて、こういう音楽もあるんやぁ......と思ったり、更にはワタシがデッドチャップリンを初めてこの場所で見た時の衝撃を、少しでも与えられてたら大成功なのだけれど。
対バンの皆様にも声をかけてもらったり、そしてブッキングマネージャーのchoriさんに嬉しいお言葉も頂いて、メンバーみんな大喜びで帰りました。いやぁ、Vox hall楽しかった! スタッフの方々もシステムも凄くしっかりしていて好感が持てるし、本当に楽しくライヴが出来ました。是非またやりたい。その時まで、さらにパワーアップしておかなければ! と誓って帰宅しました。
素晴らしい環境でライヴをさせてくれたスタッフの皆様。対バンの皆様。そして、こんな音楽を聴いてくれた会場の皆様。本当にありがとうございました!